多様な水環境への水辺のすこやかさ指標の展開と深化

Results

研究成果

水辺のすこやか指標の湖岸調査への適用

Research member

研究メンバー

Purpose

研究目的

学校での総合学習や住民・NPO等の環境学習において、地域にある川などの水環境を多様な視点から見ることなど環境学習を行う際のツールとして、2009年に環境省から「水辺のすこやかさ指標(みずしるべ)」が公表された。しかし、その指標は河川調査用のため、湖沼にはそのまま適用は困難である。したがって、湖沼を対象とした調査には、この指標の調査項目を調整することが求められる。

そこで、佐鳴湖を研究対象として、水辺のすこやか指標の基本構造を踏まえながら、指標項目の内容を湖岸環境に合わせて調整。・改良する。佐鳴湖は、かつて水質汚染が深刻で「日本一汚い湖」と呼ばれた時期があったものの、下水道整備やヘドロ除去、水生植物の植栽など、様々な浄化対策に取り組むことで、水質は改善傾向にある。また、公園整備が進み、多くの人が憩いの場として利用されている。このような佐鳴湖において、うぐいすの里佐鳴湖創生会は環境啓発活動を実施していることから、当該団体と連携して、湖沼版の水辺のすこやかさ指標の開発とともに、調査活動の実践を通じて、湖岸環境の評価の在り方や環境学習への組み込み方を検討することを目的とした。

 

研究方法

  1. 調査対象:佐鳴湖

    調査対象の佐鳴湖を図1に示す。2級河川都田川水系の新川中流部に位置し、淡水と海水が混じり合う天然の汽水湖(汽水:淡水と海水が混合した水)である。南部から流出する新川は、汽水湖である浜名湖へと注ぎ、浜名湖との水位差が10~20cmあるため、潮汐の影響で海水が流出入を繰り返している。

    海に通じているので水位が変化する汽水湖下流の新川(旧新川)と新川放水路は、潮位変化で逆流する。約50万m3の水が出入りする。上流からは約5万m3の淡水が流入している。

  2. 調査の企画構想

    2025年3月29-30日に、うぐいすの里佐鳴湖創生会により開催された「春休み楽しい仲間と体験講座:佐鳴湖サイエンス」におけるフィールドワークに参加して、佐鳴湖の予備踏査や湖岸マイクロプラスチック汚染の予備調査を実施した。そして、同時に、水辺のすこやかさ指標を用いた湖岸環境調査地点、マイクロプラスチック汚染調査地点の選定を行った。また、フィールドワークの参加した小中学生と父母を対象に、水辺のすこやかさ指標を用いた調査手順を紹介した。

    2025年7月19-20日にうぐいすの里佐鳴湖創生会により企画開催された「令和7年度家族講座:佐鳴湖サイエンス」には、佐鳴湖周辺の入野中学校や浜松学芸中学校などのサイエンス部の生徒の参加があったことから、水辺のすこやかさ指標を用いた調査をより多くの中学生に参加してもらえる企画を検討することとした。湖岸を歩き観察し,感じ、考え,佐鳴湖から学ぶフィールドワーク体験をしてもらうだけでなく、事前にオンラインセミナーを行い、佐鳴湖やその水環境の問題、さらには水質だけでなく総合的な視点から水環境を調査方法について紹介することとした。

    そこで、図2に示したチラシのように、2025年9月14日(日)10:00-18:30に水辺のすこやかさ指標を用いた佐鳴湖観察学習会を企画するとともに、2025年9月7日(日)15:00-16:00にオンラインで事前セミナーを開催することとした。

図1 佐鳴湖の衛星画像と流出入する河川面積約1.2 km2、平均水深約2m、水量240万m3、南北約2km、東西約0.6km
図2a 水辺のすこやかさ指標を用いた佐鳴湖観察学習会のチラシ表
図2b 水辺のすこやかさ指標を用いた佐鳴湖観察学習会のチラシ裏

Results

研究成果

  1. 水辺のすこやかさ指標(湖沼版)の開発

    環境省が公表している「水辺のすこやかさ指標(みずしるべ)」は、河川の水環境を多角的に

    評価し、環境学習や地域での水辺活動に活用できるよう開発された総合的な指標である。しかし、湖沼は生物学的にも物理学的にもその特性が河川とは異なる点がある。したがって、「自然なすがた」、「ゆたかな生きもの」、「水のきれいさ」、「快適な水辺」、「地域とのつながり」という5つの軸で多様な視点から水環境を調べることを踏襲しながら、湖沼の特徴を考慮したものに調整することが求められる。また、佐鳴湖は淡水湖ではなく、海水の流入や潮位変化のある汽水湖であることにも留意する必要がある。そこで、2025年3月と7月に実施されたうぐいすの里佐鳴湖創生会による「佐鳴湖サイエンス」講座で、試行を行いながら調査項目の見直しや表現を精査した。

    最終的な調査項目を、図3に示す観察ノートにまとめた。「自然のすがた」に関しては、岸の様子は残したものの、流入河川の流量、流れや波の様子を盲目とした。「ゆたかな生きもの」については、佐鳴湖の生息生物であるシジミやウナギを取り上げるとともに、固有種や外来種に関する項目を追加した。「水のきれいさ」、「快適な水辺」、「地域とのつながり」については、質問項目の表現を調整したものの河川と同じ項目内容とした。

    また、3段階評価ではなく、4段階評価にすることで、中間な選択肢をなくし、回答者に良いか悪いかの立場を表明することとした。しかし、最も大事な点は、評点を決めた理由をしっかりと記入してもらうことが非常に重要である点は変わりない。

  2. 佐鳴湖湖岸おけるすこやかさ調査結果

    9月14日の調査は、下記のプログラムで実施した。参加者は、中高生8名、うぐいすの里佐鳴湖創生会のメンバー7名、環境省1名、中央大学3名であった。図3に示すように、佐鳴湖北岸管理棟に集合したのち、調査地点での採水、すこやかさ調査、ヨシ原におけるプラスチック汚染調査を実施した後、管理棟前で透視度測定とパックテストによるCOD測定を行った。

    <佐鳴湖観察学習会のプログラム>

    10:00-10:30  開会挨拶(参加者紹介)、調査説明

    10:30-10:40 小藪の湧水での採水

    10:50-11:10 せせらぎ水路(佐鳴湖東岸水質浄化施設付近)での採水、調査

    11:15-11:30 ヨシ原におけるプラスチック汚染調査

    11:50-12:10 神話の里・ウグイスの里での採水、調査

    12:20-12:40 採水試料の測定(透視度測定とパックテストによるCOD測定)

    14:00-16:30  研究発表会と調査振り返り

    調査結果として、項目ごと評点を図4にまとめた。

    本研究では、評価項目の妥当性や表現のわかりやすさを検討することを目的としていることから、ここでは評点に関する詳細な考察は行なわない。今回の調査では、調査の結果公表や振り返りは、昼食後の研究発表会(椎の木谷特別緑地保全地区管理棟)のあとに行った(写真4)。研究発表会では、地元研究者による佐鳴湖の水環境問題における講義、地元サイエンス部の生徒による研究発表、そして、中央大学の学生によるプラスチック汚染やマイクロプラスチック問題に関する話題提供が行われた。発表会の間に調査結果の集計を行い、調査の振り返りを行った。

    調査結果としては、「自然のすがた」、「ゆたかな生きもの」で、自然な湖岸が保全されている神話の里・ウグイスの里で評価が高く、逆に「快適な水辺」、「水のきれいさ」、「地域とのつながり」では、水質浄化施設と公園整備がなされているせせらぎ水路が高い評点であった。評点が2点以下は、神話の里・ウグイスの里において、「水のきれいさ」の透視度、COD、「地域とのつながり」の産業などの活動、せせらぎ水路においては、「自然なすがた」の湖岸の自然の様子、「ゆたかな生きもの」のシジミやウナギの項目であった。

    シジミやウナギは湖岸ではなく、湖の底生生物であり、湖岸での調査では判断がつきにくいことに関連しているものと思われる。したがって、水辺環境と湖沼本体の水環境は関連しているものの、質問の表現をさらに精査する必要があるものと考えられる。

  3. 佐鳴湖における湖沼版の水辺のすこやかさ指標を用いた調査における課題

    2回の試行調査と9月の本格調査の実施を踏まえて、河川用に公表されている水辺のすこやかさ指標の湖沼版への調整における課題、本指標を用いた調査実施における課題と解決策について整理する。

    • 水辺のすこやかさ指標の佐鳴湖版への調整における課題

      「水のきれいさ」、「快適な水辺」、「地域とのつながり」の軸については、河川と同様な質問項目で水環境評価が可能と判断したが、「自然のすがた」と「ゆたかな生きもの」については、調整が必要と判断した。

      「自然のすがた」

      河川と異なり、湖沼は停滞水域であり水の流れが明確でない。しかし、湖沼の水理学的滞留時間は湖沼水質に大きな影響を与えることから、流入河川の流量を質問項目も設けた。しかし、湖岸において流入河川が必ずしもあるわけではないことから、湖全体の評価となり、水辺の評価としては不適切であった。また、生徒や市民には流入河川の流量が豊かかどうかの判断が困難であることから、事前学習の重要性が高い。
      佐鳴湖が汽水湖であることから、潮位変化や海水の流入という特徴を踏まえた物理的な流れに関する質問項目を検討したが、適切なものを見いだせていない。
      湖岸に打ち寄せる波は重要な要因と考えられたことから、湖岸付近の流れや波の質問項目を設けたが、これも生徒や市民には判断が困難である。
      「ゆたかな生きもの」
      汽水湖である佐鳴湖の特徴として、歴史的にも水産資源として重要なシジミとウナギを取り上げることとした。シジミやウナギの生息量は現在限られており、シジミについては繁殖実験中である。その意味でも、「ゆたかな生きもの」軸において反映することとした。
      湖岸の遊歩道などに多くのアカテカニが生息しており、一般市民には自然な生きものとして魅力的に映る。今回の質問項目に追加を検討したが、項目数の増加を考慮しえ、佐鳴湖の生物としての重要性が高いシジミとウナギを優先して、保留とした。
      佐鳴湖では、外来種としてミシシッピアカミミガメ、ブルーギルの増殖が問題となっており、質問項目に取り上げた。実際に、ミシシッピアカミミガメを多く見かけたが一般には問題のある生きものとしては認識されないこともあり、生徒たちに特定外来種の問題を現地で説明できる機会となった。
    • 調査の実施における課題と解決策
      地元の環境団体との連携の重要性
      東京から遠隔にある佐鳴湖を研究対象にした経緯は、研究代表者が過去に佐鳴湖地域協議会(静岡県浜松市)向けの講演会で水辺のすこやかさ指標を紹介していること、その際にその協議会のメンバーであり、現地で調査活動の実績があるうぐいすの里佐鳴湖創生会と交流を持っていたことに起因する。そこで、この団体と連携して水辺のすこやかさ指標による水辺評価を行う調査活動の実践をした。

      現地で活動しているうぐいすの里佐鳴湖創生会による協力は非常に大きく、様々な面で現地調査のための下準備などに貢献いただくことができた。したがって、この種の現地調査を実施する上で、地元の環境団体との連携は非常に重要な意味を持つものと考えられる。

      地元の中学校のサイエンス部との連携の有用性
      春休み期間である3月に実施した試行調査には、地元の小中学生とその父兄にも参加いただけた。その1名の生徒が地元中学校のサイエンス部に所属していたことから、うぐいすの里佐鳴湖創生会により佐鳴湖周辺の中学校へのチラシ配布を行っていただいた効果もあり、7月の調査には2つの中学校のサイエンス部所属の生徒参加を得た。調査終了後の生徒たちとの反省会での議論を受けて、佐鳴湖周辺の中学校のサイエンス部との連携を模索することした。

      サイエンス部の生徒のネットワークを利用したこともあり、9月7日の調査前のオンラインでの事前セミナーには、調査参加予定の生徒を対象に、水辺のすこやかさ調査の予定や計画を説明するとともに、事前学習として佐鳴湖の歴史(成り立ち、地形、湖に関わる歴史的なできごとなど)、水環境問題(水質、生物、ごみなど)についての紹介を行い、Q&Aを設けることができた。

      結果として、9月14日の本格調査には、中学生5名、高校生3名の参加を得ることができた。対象湖沼の周辺中学校のサイエンス部の活動がある可能性が高いことから、そのようなサイエンス部との連携を持つことで水辺のすこやかさ指標の調査の普及や活用が広げる可能性が高まるものと考えられる。

水辺のすこやかさ指標(湖沼版)用の観察ノート(案表面)
水辺のすこやかさ指標(湖沼版)用の観察ノート(案裏面)
図3 集合場所と調査地点
図4 水辺のすこやかさ指標による評価結果

Rreferences

参考文献

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